さよなら IE

マイクロソフトが開発提供してきたInternet Explorer、通称IEのサポートが今年2022年6月16日をもって終了します。
ブラウザの歴史から見るとなかなかに感慨深いものがあります。

パソコンが、一部の趣味人のものから家庭用へと広まったきっかけは、OSの進化とインターネットの普及が要因として大きかったと思います。
そのインターネットを閲覧する為のユーザーインターフェース(UI)をウェブブラウザと呼称するのですが、私が初めて触ったのはネットスケープでした。
当時ネットスケープこそが唯一のインターネットへの入口であり世界への窓口でした。
接続はモデム→電話のアナログ回線→ダイアルアップ接続する方式で、フランスの美術館のサイトから数時間かけてjpeg画像1枚をダウンロードしたのも今では良い思い出です。
そんな時代にWindows95と共に登場したのがIEでした。ここからシェア争いをめぐるブラウザ戦争が始まります。
利用していた感覚としては圧倒的にネットスケープ信者の私でしたが、Windows98からOSの一部とするマイクロソフトの戦略で、Windowsの拡大=IEの拡大となり、ネットスケープのシェアは次第に先細りとなっていきます。

Windowsが職場に浸透していくにつれ、インターネットのIEとメールのOutlook(Officeも入りますが)はビジネスツールの基盤となりました。
こうなると圧倒的な母数が威力を発揮して、ブラウザにおける覇権をIEが獲得し続けていく事になるのですが、システムとして優れていたかと言うと微妙なブラウザでした。
ブラウザに求められる表示スピードの速さ、表示の正確さ、継続して表示できる安定性、改竄に対する強さなどが、当時のライバルだったネットスケープには及んでいなかったように思います。

特にホームページの制作サイドから見た時に、IEには本当に泣かされました。
ネットスケープが時代の波に乗り切れず退場した後は、IEがほぼシェアを独占する事になるのですが、ライバルがいなくなったからかIEはバージョン6からの進化が停滞します。
そう、後に制作現場を疲弊させる大きな原因となるIE6が爆誕するのです!!

IEがブラウザ市場を独占した後もインターネット世界は更に進化を続け、より自由度のあるレイアウトの実現、インタラクティブな表現への対応などがホームページ業界にも求められ、より進化したHTML技術の導入が開始されます。
IE6が停滞している間に登場した新興ブラウザ、Firefox、Opera、Safari、 Chromeは新技術を積極的に導入していきますが、それでも圧倒的なシェアを持つIEはしばらく動きを見せませんでした。

その頃のWebサイト制作現場では、実際の制作作業よりもブラウザの確認作業と対応に時間を割かれるような状況でした。
建前として、ホームページは全ての環境で同じように見えなければならないのですが、IE6がポンコツ過ぎて専用の対応をせざる負えない為、極端な話がデータを二つ(IEとそれ以外)作るような感じでした。
IE6にはそれ以外にもセキュリティーホールが多く対応が追い付かないなどかなり致命的な問題もあり、多少なりともシェアが下降し始めます。
ここに来てようやく危機感を持ったマイクロソフトはIEを7.0、8.0とバージョンアップするのですが、他のブラウザと標準化できるレベルとなるIE9が登場するまでは、制作現場は更に疲弊させられる事になります。

Firefox、Opera、Safari、 Chromeで普通に表示されるページが(SafariもVerによってやや癖がありましたが、、)IE8ではレイアウトがやや崩れ、IE7では一部の画像や色指定が表示されず、IE6に至ってはほぼ空白!
余りに悲惨な状況なのでクライアントに泣きを入れ、
「IE6対応だけは勘弁していただけないでしょうか?」とお伺いをたててみると
「決定権を持っている方がIE6を使っておられて、、、」との非情なお言葉!!!
結局JavaScriptなど多数の追加プログラムを駆使してIE6でもなんとか見れる状況まで持っていく不毛な残業が度々発生したのです。

そうIEの大きな問題は、Windowsとofficeがビジネスツールとして日本に拡大した為に、基本ブラウザとして簡単に変更できなくなった事にあります。
さすがに現在は減ったと思いたいのですが、多くの企業や官公庁で旧バージョンのWindowsOSをベースとして業務システムを開発したものの、更新する追加の設備投資を見込めないために、旧態依然としたシステムのまま業務を続け、IEがWindowsOSと密接に繋がっている事も相まって、簡単にバージョンアップ又は他のブラウザに変更出来ない体制になっていた事は、セキュリティ面において非常に重大な問題として度々報道されておりました。

個人的に記憶に残っているのが確定申告のe-Taxが2020年までIEにしか対応していなかった事です。国税庁ともなれば率先してセキュリティ問題に取り組むべきと思うのですが、問題があるとマイクロソフトからも注意喚起があったIEを、つい最近までe-Taxのメインブラウザに使う辺りが日本のデジタル化への取り組みを端的に表しているように思えてなりません。(現在も一部の役所業務でフロッピーが使われているとニュースになったりしましたが、WindowsXPベースのシステムとかかもしれませんね。)

あとは単純にデジタルに弱い勢&興味無い勢が、業務上パソコンを使わざる負えなくなったケースなどでは、必要であっても更新しないのが実情で、そういう方々に限って大きな権限を持っていたりして、制作現場の辛い日々は続いたのです。

実際IE6のサポート終了が発表された際、世界中のWeb関係者の間で一種のお祭り騒ぎが起こったほどの影響力だったのです。

その後IEはバージョン11まで開発されましたが、Microsoft Edgeの登場で正式にIEは開発を終了します。
そして時代はChromeが大きくシェアを伸ばし、IEを逆転。
EdgeもOperaもChromium(Chromeのベースシステム)での開発に切り替えた為、ほぼほぼChromeの独占状態となりつつあります。

Webサイトの制作側で言えば、其々のブラウザがWeb標準に沿って開発している事で、ブラウザ毎での対応は解消されたと言える状況になり、
ようやく本当にIEのバージョン毎にCSSを指定するなどの不毛な作業から解放されたのです( ˆoˆ )/
ただし、最近ではWebブラウザ以外の新しい端末用の表示対応も求められますので、作業量的には変化ないか、むしろ増えたかも!?(ノД`)・