男女間のコミュニケーションについて考える~男女の脳の違いに起因する、は本当か?

 今回は橋本が担当いたします。
 職場や家庭など、人と人との間に生じる問題の70%は、コミュニケーションに原因があるといわれておりますが、実はこの割合は、どんなにSNSなどのコミュニケーションツールが発達してもあまり変わっていないようです。
特に男女間の会話については、ビジネス上のみならず、日常生活であっても、
 ・女はどうして、こんなことに、そんなに感情的になるのだろう?
 ・男って、何でこんなに鈍感で、こんなことにも気づかないの?
といった、思わず「え?」と感じてしまった経験は、少なからずあるのではないでしょうか?
今回は、私が関心を持っているテーマの1つとして、「男女間のコミュニケーションのスレ違いを招いてしまう根底にあるのは、男女の脳の違いに起因する」という説について、なかなか興味深いことが分かってきましたので、そのことについて述べてみます。

 男性脳・女性脳という言葉が広く知られるようになったのは、世界的なベストセラーとなった『話を聞かない男、地図が読めない女~男脳・女脳が「謎」を解く』(アラン・ピーズ&バーバラ・ピーズ著、主婦の友社、2000年日本発売)といってよいと思いますが、同書では、「男性は言語能力が劣っているため、人の話が聞けない」「女性は空間能力が劣っているため、地図が読めない」ことをはじめ、男性脳と女性脳の違いからくるそれぞれの特徴について指摘しております。(ちなみに、近年の研究では、方角や距離を記した地図が与えられた場合は、男性が正確に場所にたどり着くが、特徴的な建物や樹木など、具体的な目印や左右を使った指示を出した場合は、正確さは逆転し女性が上回るとのことです。これほど、この分野の研究成果は変わっているということですね。)

 また、最近では、2018年10月発刊された『妻のトリセツ』(人工知能研究者・感性アナリスト・黒川伊保子著、講談社+α文庫)が結構話題となりました。同書は刺激的なタイトルながら、特に夫婦間での会話や感情のすれ違いは、男女の脳の反応の違いに起因し、その違いを知ることが、円満のヒントとなるということを記しております。
 しかし、本書には科学者から否定的な意見も数多く出されました。その代表的な見解としては、「データの科学的根拠が薄く、脳科学の最新の研究成果を反映していない。男性の脳、女性の脳の平均値を集団として比較した差があっても、そのことで、男性の脳、女性の脳についての一般化はできない。脳には個体差が大きく、環境や教育などの様々な要因からの影響を受けるので、単純な因果関係で説明はできない。」(認知神経科学が専門の四本裕子東京大学・准教授、ナショナルジオグラフィックWeb記事より)があります。

 脳の性差は、OECD(経済協力開発機構)が2009年に公表した報告書で、科学的根拠が薄い「神経神話」として警告しているうちの一つであるといいます。このように、例えばUFOや超能力のように、研究する対象の存在が怪しいか否かではなく、科学的に信頼のおける方法によって検証することのない(あるいはデータとして乏しい)ことを根拠にして主張をする、手法に問題がある論説は、「疑似科学」として、流布根拠することには危険性があります。代表的な例としては血液型による性格学があり、これによるレッテル張りや相性の推定などは、確かに避けなければいけないものです。

 それでは、「科学的な根拠が薄い」からといって、男女の脳の違いからくる傾向については、学ぶには値しないと切り捨ててしまうべきなのでしょうか?その問いについては、私は必ずしもそうではないと考えております。というのは、私は、先ほど紹介した黒川氏監修のセミナー「ダイバーシティ・コミュニケーション講座」を受講したことがありますが、結構新鮮な気づきがありました。
 この講座は、「男女が同様の教育を受けている現代社会では、意識して行う思考や行動に男女差はあまりありませんが、実際のコミュニケーション上で、思いがけない食い違いが生じてしまうのは、男女脳の感性領域のから生じる、無意識の、とっさの快・不快」が異なることが原因と考えると、説明がつくことが多い」として、「良かれと思っていることが裏目に出るケースがあり、互いに悪意がないために、かえって根が深いとも言え、単に感情面での問題にとどまらずに、ダイバーシティ推進の大きな妨げとなってしまう可能性にもつながります。」という考えのもと違いに、組み立てられております。
 ・目的の分からない話でストレスを感じる男性脳、共感してもらえないとストレスを感じる女性脳。
 ・大きな空間や複雑な気候を素早く把握する男性脳、興味の対象や僅かな変化も見逃さない女性脳。
 ・端的に言うと、ゴール指向問題解決型男性脳、プロセス指向共感型女性脳。
ということなど、かなり、男性・女性の行動傾向を知るヒントになると思われます。

 そこで、男女の脳の違いについての、黒川氏の考え方を紹介いたします。
 「男女の脳は、解剖学的には違いがあるとは言えません。男性にしかない器官や、女性にしかない器官があるわけじゃない。大きさのバランスが違う程度。ここにエビデンスを求めてしまうと、常に『そうとは言い切れない』という疑問にさらされます。しかし一方で、〝脳のとっさの使い方〟には、男女それぞれに類型があることがわかってきています。このとっさの使い方の違いが、現実世界の男女のミゾを作っているので気をつけよう、というのが、基本にある考え方です。」
 ここで述べているのは、静的にはほとんど違いがないということは科学的に認められるが、動きを伴った無意識な反応の傾向について類型がある(違いがある)ことも、(必ずしも科学的な検証はできないかもしれませんが)現実的には知っておくことが役に立ちますよ、ということで、その捉え方は、私も支持しております。
 このように、ある事象が科学的な手法で説明がつくかどうかということと、必ずしもそうとはいえないことも認めることは別の問題ですので、こうしたことにも、自分のこととして、自分の頭で考えることが必要ということを、強く思っております。
 なお、今回は男女の行動の違いを、男女脳の観点から取り上げてみましたが、社会的な環境や文化の違いから、無意識に影響を受けているという「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」や、性別としての男女とは別の、心理的・精神的な「男性性と女性性」という切り口から捉えることも、とても示唆が多いですので、これに関しては別途調べてみようと思っております。


今月の1枚
GWに出かけた葉山の海岸で、偶然晴れた落日を見ることができました。
左側に富士山、右側に落日、そして中央に海上の鳥居があり、
結果として、なかなか絶妙なバランスになったと思います。(5月撮影)

2019年08月20日(火)