プロビティコンサルティング株式会社

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2014年7月29日 一番町集会室実施

社外取締役、ダイバーシティ、コーポレートガバナンスにスチュワードシップコード等々、上場企業の経営には
より透明性が求められてきています。
しかし、このような議論は突然に降ってきたわけではありません。
そもそも、会社という仕組み自体、我々人間一人一人が支えているものであり、我々人間が社会によい価値を生み出すことを目的として設立したはずではないでしょうか?
今の議論の背景にはどのような思想や潮流があるのか、“いい株主 いい経営”を目指して活動されている
株式会社ナディア代表の松山先生に語っていただきました。

野田:

まずは、「そもそも、今なぜコーポレートガバナンスが必要とされるのか?」という大きな話から、
先生に自由に語っていただきたいと思います。


今なぜコーポレートガバナンスが必要とされるのか?
松山:

はい、コーポレートガバナンスというのは何だか今突然必要になったように言われていますけれども、会社設立の時からその会社固有のガバナンスの仕組みがあったはずなんですよ。
例えば日本企業ではガバナンスの一番重要なセクターというのは取締役会なんですけれども、監査役会を設置する会社もあれば、あるいは前の会社法の改正で委員会設置会社もできる。
そして今回、今年の6月にまた会社法が改正されて、監査監督委員会というものも設置して良くなりました。
3つあるうちのいずれも選択できるんですが、会社を作った時に将来この会社を公開しようと考えたか、個人の会社のままでいると考えたかもありますけれども、どういう風にきちっとした仕組み、規律を持った形にしていくかがガバナンスなんです。
いずれにしても、一番な重要なコーポレートガバナンスの主役は実は株主なんですね。
ガバナンスという言葉は非常に圧力のあるような響きで…日本語に変えると「企業統治」とか・・・


野田:

直訳するとそうなっちゃいますよね。


松山:

そうじゃなくて、ガバナンスというのはそもそも会社が継続的に発展成長するためにやって良いことと
いけないことだとか、まさに会社のありようを自分たちで決めて、その後それによって支配されていくのが
ガバナンスだと思うんですね。
そうだとすると元々はあったガバナンスの考え方や仕組みが、上場して何年か経ってからその意識が薄れていく。
主役だった株主、株主が選んだ取締役で構成される取締役会が会社を監督したり、経営の大きな戦略的意思決定そのものを経営側に委ね、その実質権利が移ってしまう。
政治の世界の例えで言うと、本当は有権者によって選ばれた国会議員で構成する国会が主役なのに、内閣が政治全体を大きくリードして、主従の関係で言うと、本当は国会で内閣は従のはずなのに、内閣に国会が従属するようなかたちになってしまっている。
日本の株式会社の構造もまさに経営陣が取締役会を支配する構造になってしまっている。
しかも日本ではアメリカなどとは違って投資家教育だとか一般の投資家に対して経済に関して教育する仕組みもありませんので、議決権を持った株主がその権利を行使しない。まさに政治と一緒で、選挙に行かない有権者(株主)が増えてしまっている。
これは経営側にとっては思うツボでして、特定の仲の良い会社と、例として金融機関がありますけれども、日本は持合というものをやって、お互いに株主総会での取締役会選任や重要な意思決定についても支配権を持ちつつ経営が実権を握るという仕組みがずっと続いてきたんですね。
それでも業績が良くて順調に拡大をしている時期はそれが表面化しなかったんですが、バブルの崩壊があって、それに対してなぜバブルを生んだかという問題もありますけれども、「どうも会社が民主的に経営されていないのではないだろうか?」という風に気がつき始めて、そこで初めて株主を尊重しなければならないという発想になって、このコーポレートガバナンスという言葉がキーワードになってきた、という風に私は見ています。


野田:

コーポレートガバナンスというのはよく言われるのは企業が長期的、持続的に発展していく為の仕組みであって、
特に中でも株主と経営者の関係が軸になっていると?


松山:

そうですね。


持続可能性との関連でとらえる
野田:

そして先生がいつもおっしゃっているように、たとえ経営者が変わったとしても、会社が持続的に利益を出し、
企業価値を高めていく仕組みが求められているということですね?
この持続的という言葉は色々なところでキーワードだなと感じています。


松山:

「サステナブル」とか「サステナビリティ」と言って、まさに日本では株主という言葉を聞くと、切った張ったりする人々を想像する、まるで投機家のように認識していますけれども、株主とは世界ではまさに長期的にその企業の発展とともにそれから得られる利潤の一部を享受しようという考え方でとらえられています。
日本では「シェアホルダー」という言葉が使われますけれども、海外の年金基金とか長期投資家は自分たちのことを
「シェアオーナー」と言うんです。
この言葉の用い方一つをとってみても全く違っていて、例えば持分は発行済み株式数のわずか0.1何%であってもその持ち分を持つ自分はその企業のオーナーであるのだという感覚を持っているわけですね。
これが日本の場合ですと、取引所でも見学会コースの中に出てくるのは、「シェア」という言葉を度々使うんですね。
シェアという言葉は分け前みたいなもの、ある意味で長期的にそのまま投資をし続けるという概念がある一定期間の成果が得られたら配分をしてゼロへ戻すような感じなんですね。
株式会社が最初に誕生したのはオランダですけれども、日本がそれから遅れて100年以上ですかね、日本郵船という会社がはじめて株式会社らしい株式会社になるんですけれども、その当時の日本は海外に学んでいたので、ガバナンスの仕組みはまずしっかり作られたはずだと思うんですね。
しかし、しばらく忘れ去られ、再び、そのガバナンスという言葉が日本で本格化していくのは1990年代の中ごろなんです。
アメリカでもこういう問題が一番最初に注目されたのは少し古くて、ICGNなどができる前の1972年にワシントンに、IRRC(インベスターレスポンシビリティリサーチセンター)というものができるんですね。
ここが大きな節目なんですけれども、その設立前は、悪い会社には投資し続けない、ウォールストリートルールというんですけれども、そんな会社のものを持っていても仕方がないから売ってしまおう、という行動だったんです。


野田:

「売ったらもう終わり、関係も切れる」ということですね。


松山:

そう、縁を切ってしまえば良い。
しかし、その会社が規模の大きい会社であれば、需給関係はその瞬間は崩れますけれども、再び株価は戻ってしまうんですね。
そうすると運用している側…特に年金基金はそういう方法を採っていたんですけれども、これはどうも本来の持続的な資産の、年金基金、株主としての資産形成にどうもこの行動は合っていないのでは?
という風に感じるようになるんですね。
そこでアメリカ最大の年金のTIAA-CREFやCalPERSといった色々な公的機関、もう1つは当時は年金よりも当時大きな資金を持っていたのは財団なんですけれどね、今のように年金は大きな資産ではなく、1970年代当時はそれほど大きくなく、それで皆で集まって、ガバナンスの改善をするようなものを初めて改革するようにした方が良いんじゃないか、という発想で私的な研究機関であるIRRCを立ち上げるんですね。


野田:

そうなんですね、それが先ほどおっしゃったIRRC?


松山:

そこは非常に中立的で、それぞれの企業、年金基金等が投資している会社の、
今でいうEnvironmentやSocial responsibility、あるいは取締役会の構造のまさにガバナンスの問題とか、そういったものを逐一調査をしてデータ化して年金基金に議決権行使の時にその情報を活用してもらうということが始まるんですね。
そして民間企業でも、今でもありますがCouncil of Institutional Investorsだとかこういうのが生まれてきて、そういう企業を色々な角度から質を計るということが行われてきたんですね。
すでに当時から言われていたのが、株主と企業の間でのエンゲージメントみたいなものが起きていて、株主としての責務を果たすということはその当時から海外では積極的に行われていたんです。


野田:

やはりお話を伺っている中で思うことは、「所有するということには責任が伴うのだ」という
非常に根本的な考えがありますよね。それを感じます。
「所有しているから何をしても良いんだ」という考えではないのですね?


松山:

ないです。
その辺りは企業も、特にアメリカがそういう分野で発達しているんですけれども、企業経営者自身が株主によって選ばれているのだ、という認識を強く持っていますよね。


野田:

そうですよね、取締役というのはあくまで株主から経営を委任されている存在である、と。
そこがおっしゃったように上場してしばらく経つと、まるで会社は経営者のものであるように勘違い…ですよね。


松山:

極論すると社長は誰でも経営できるような会社にしなければならないんですね。仕組みは。
ただし誰でもやれるというのは、その仕組みを維持発展させる資質のある人ということになるんですけれどもね。
「この社長がいなければこの会社は持たない」という状況はものすごくリスクが大きいですから。
ですからそういった先進的な活動をする年金基金などは、いくら業績が良くて増収増益が続いていてもある特定の経営者に、今の状況が特定の経営者に依存しているというのであれば、「何とかしてその仕組みを変えた方が良い」という風なことを言うんですね。


野田:

後継者をいかに育てるかというのも非常に重要ですね。


松山:

その通りです。
最近出た本で、よく世界の経営モデルになりますGeneral Electricという会社がありますね。
びっくりするんですけれども、設立から120年経つその間に所謂社長、CEOが何人いたかというと、確か7人、


野田:

なるほど、一人ひとりが長いんですね。


松山:

それはなぜかというと、特定のリーダーがひっぱり続けなければいけないのではなくて、そういう持続的な能力がある人がたまたま社長になっている、という言い方で書かれていました。


野田:

あとは元々ガバナンスというところで、経営者と株主の関係なんですけれども、
日本ではあまり意識されていない…というか日本の状況が全然違うのですけれども、アメリカですごく問題になっているのは CEOの報酬の高さ、これはもう完全に株主と経営者との利益が相反するということが如実に表れていますよね。


松山:

そうですね。そこは以前から、エンロンの問題が起きる前からアメリカのCEOの報酬が高すぎる、ストックオプションだのなんだのを加えるとべらぼうな報酬になるんですけれども。
だから現実にアメリカの学生に将来の夢を問うと、もちろんプロバスケットボールやアメリカンフットボールの選手という答えもあるんですが、一番多いのはやはり「トップマネジメントになりたい」というんですね。
それはなぜかというと報酬で比較して相当な報酬をもらえるからです。


野田:

ちょっと日本人の感覚では…恐るべし…という感じですけれども(笑)、
ちょっと高すぎるのではないかと思ってしまいますよね。


松山:

報酬と言うのは、もともと極論すればいなくても会社が稼げる仕組みを作っていたとすれば、経営者の能力というのはそれを引き上げた部分に本来の価値があるので、それはそんな金額にはならないだろうな、という風には思いますね。


野田:

ありがとうございました。
その中でも次は「ESGとは何か?」ということをお願いします。また大きな話で恐縮なんですけれども。


ESGとは?
松山:
松山英明(まつやま ひであき)
株式会社ナディア
代表取締役

『いい株主・いい経営』を実現する株式会社ナディア 代表取締役、ICGN (International Corporate Governance Network)会員。証券会社、証券経済研究所、ロンドン駐在を経て、決算発表の早期化、事業報告書の株主通信化や議決権を積極的に行使するCalPERSやHermesなどの海外年金基金等をはじめ、真の長期保有株主への企業の個別訪問を実現。
コーポレート・ガバナンスの実務研究を重ねる。その後、三和総合研究所(現 三菱リサーチ&コンサルティング)IRコンサルティング室室長兼主席研究員、日本投資環境研究所(みずほ証券子会社)設立プロジェクトリーダー、取締役COO兼首席研究員。2001年独立。1963年米国で出版された「Investor Relations : The Company And Its Owners」の翻訳本『株主関係管理:株主尊重の経営』(1967年、訳者:内田幸雄氏)を発見し、その復刻出版を行い、真のIRの普及を目的に2009年1月7日株式会社ナディアを設立。2012年からICGNの実施するESG integration training programmeにも参加、世界の真の長期投資家が求めるESG(Environmental, Social and Governance)による企業評価に向けたコーポレート・ガバナンス改革支援(取締役会の改革支援)、株主との積極的なエンゲージメントのコンサルテーションやIR活動の支援を行う。立命館大学法学部卒。1951年9月1日生まれ、和歌山県出身。

元々ESGという言葉自体が出てきたのは2006年だと思うんです。
PRIという任意団体ができました、そこで投資判断に単なるファイナンシャルな部分だけではなくて、
Eは Environment、SはSocial Responsibility、それにGはCorporate Governanceなんですけれども、
これに総合的な判断で企業の価値というものを判断しないと、本当の企業の価値=true valueという言い方をしていますけれども、true valueは見えないだろうと。
これを提唱したのは、PRIの設立に最大貢献したのは前の前の副大統領のアル・ゴア氏、環境問題でノーベル平和賞ももらっている方ですね、彼がこういうコンセプトを提唱して、世界にそれを広めようという風な形で、それを承認する世界の機関が約2,000くらいできたのかな?
PRIのコンセプトに賛同する機関投資家などのリストは、各国別に出ていて、単にファイナンシャルだけではなくてまさにこれも株主としては責任なんですけれども、 「ポートフォリオを作る時、あるいはその運用にあたって、ESGのコンセプトをきちっと踏襲してやりなさい、このうちのいくつかの中に、1つは投資の意思決定のプロセスの中にこのESGの課題を組み込みます」と。
あるいは「所有者になり所有方針にこの問題を組み入れます」とかですね、こういうことを公表しています。
これはこの時にきちっとしたフォーマットになったのですが、私はそれよりも前にイギリス最大の公的年金基金・ハーミーズが同じようなコンセプトを先に発表していまして、ハーミーズ原則というものが2007年に本格的に各国バージョンで出されていて、今ホームページからは見られなくなっていますけれども(笑)
その中に、まさに責任投資に係るコンセプトはほぼ網羅されていました。
Eはよく理解しやすいと思うんです、環境をどう改善するか、また、環境負荷を最小化し適合するような独自のビジネスモデルを作っていくか、ということです。
特にEnvironmentと言うと間違えるケースもあるんですが、「自分たちの事業の中で環境をより改善するようなものの原材料から生産の仕組みから改革していく」というのが最大のポイントなんですね。
それからS、Social responsibilityというものは一番大事なのは誰かというと、その企業で働く人たちの環境、職場環境あるいは工場の設備も含めてですけれども、そういうものがより健康な状態になるよう、人々が最適な成果をあげられるような仕組みを維持し続ける…


野田:

問題視されたバングラディッシュの縫製工場とか一時騒がれましたよね。


松山:

例えば今おっしゃっていたように、サッカーボールをナイキが発展途上国の小学生に作らせていたというと、
すかさず社会問題化しました。
それ以外にも予期せぬ添加物を食品に入れてしまうということもあるでしょうし…
そういう中でペプシコという会社は2008年ごろから今のインドラ・ヌーイ社長が就任してからそのコンセプトで、まさに環境問題やsocial responsibilityも含めた企業行動全体を改革しようという取り組みをずっとやっていますよね。
その中で特に社会問題や環境問題もそうなんですが、ハーミーズ原則の中の方がより明確になるんですけれども、
1つは言葉を変えると企業の倫理観みたいなものになるんですけれども、ハーミーズ原則の中の社会倫理環境、EとSが入っているんですけれども。その中の原則の1つに費用の転嫁というのがあります、
「企業は社会全体にコストを転嫁するようなことを最小限にとどめるための法的及び自主的な措置を講じるべきである。」と。
当然のことながら事業は競争的な環境の中で行われなければなりません。
そうした中、事業が被るコストを外部に転嫁する、本来は垂れ流してはいけないものを次のサプライヤーに負の部分を移転して自分のところに利益を残す、こういうやり方ではいけないんですよ、自分のところで処理しなければならないものについては自分のところで解決すべきで、外部あるいは環境汚染をするなんていうのもまさにそうなんですけれども、そういうことをして事業をやってはいけませんよと。


野田:

それは、ひいては長い目で見ればその企業に戻ってくる、というような考え方ですよね?


松山:

そうですね。ですから今回の社会的な問題で言うと、鶏肉の賞味期限問題ですね。
中国だから許される、ではなくてそれ以外にも日本でもクルマエビではないエビを使っていたといったこともありましたね。 消費期限を切れたものでもコスト削減のために使うということは、雪印乳業でもありました。
そういうことはやってはいけない。
結果的に今回の中国の件でもそうでしたが、回りまわって自分のところが破たんすることになりますよね。


野田:

あと、少し話がずれてはいけないんですけれども、私が最近すごく感じていることがソーシャルコストという考え方で、色んな社会問題―例えばニートの問題だったりいじめの問題だったりということは
結局、私はそれは社会全体に対して長い目で見るとコストになって跳ね返ってくるのでは?
こういうことを最近非常に感じることなんですよね。
だから短期的な目で見るのではなく、回りまわると私たち全体が費用、コストを払うことになるんだということを長い目で見なければならないと、最近すごく感じることですね。


松山:

その通りだと思います。
今の年金問題もそうですけれども、国民の中にもう少し良い会社を直接応援する株主の目を育てていたら、日本の株価だけがこんなに長く30年近くも低迷することはなかったと思うんですね。
30年もあれば、もっと新しい世界をリードする、世界に名をはせるようなベンチャー企業が育っていたのではないか?というふうに思うんですね。
この10年間を見ただけでも、特にITの世界では明らかですけれども、ほとんどリードしているのは海外企業、
特にアメリカの企業だと思うんですね。 GoogleあるいはFaceBook、それ以外にもAmazonだとかここ10年くらいで大企業に成長していって世界規模になった会社はたくさんあると思うんです。
日本で考えてみると今の自動車産業も元々は小さな町工場だったわけです、それが育ってきたのは、銀行のお金、あるいは昔のソニーにしてもそうですけれどもやはり資本家が育てたと思うんですね。
当時は国民全体はお金がありませんでしたけれども、今と違って大資産家がそれぞれの地域にいて、そして応援したんだと思います。 特に鉄道を作った人々などは自分たちに資金調達力があってやっていたのだと思います。
しかし残念ながらそういう企業を育てようという人がいないと言ったら良いんでしょうかね、
仕組みはあるけれども仕組みがほとんど活用されない。


野田:

どうしても投資に対してネガティブな感じになりますね…


松山:

そうですね、その最大の原因は本当の株主を育てるような教育がないということが1つ上げられますけれども、
資本市場の担い手である企業もそうですけれども、一番重要な取引所自体も、その仕組みを変えられないからだと思うんですね。
取引所の仕組みというのは売り買いのボリュームによって収益構造が変わる、という、これは証券会社もそうなんですが。 それをもっと根本的に変えるというか。


野田:

今は手数料ですね。


松山:

たぶんこれは世界中で手数料でやっているんですけれども、
ベースとなる長期投資家が積み上がったうえでフォローの回転する取引があればよいんですけれども。


野田:

時価総額とかそういったものでしょうか?


松山:

ええ、ベースとなる、特に国内の個人投資家が安定的にある一定額をキープしている状態を作らないと。日本の個人の持ち株比率は全体で18%くらいなんですよ。外国人の方が圧倒的に多いですよね。
それから去年1年間では20万人以上株主の数が減ってしまうという傾向にあって、あるいは今年からNISAというものが始まりましたけれども、NISAで1兆円の口座ができた、それによる純増があったにも関わらず株式市場全体で見ると同じ期間に個人の投資家が1兆円以上売り超しているんですね。
だから仕組みがちぐはぐ、上手く合わさっていないんです。
それは根本的には手数料を稼ぐという方法論を抜本的に変えないと、
おそらく長期的な資金(株式を資産と考える資金)が市場に根付くということはないと思いますね。
投資顧問会社というのは売ったり買ったりするのは費用になりますのでなるべくしたくない、お客さんから預かった資金に対しては年間、信託財産に対して一定の収入をいただくという仕組みですから、費用を増やす頻繁な売買は基本的に好まないのです。
だから証券会社全体、というか市場全体もそういう風に、長期保有を基本に資産を積み上げるようにしていけば良いと思うんです。


野田:

それじゃあ今証券会社多すぎるんですかね(笑)


松山:

多すぎるでしょうね…インターネットがこれだけ発達している中ですから。



スチュワードシップコードとは?
野田:

次に先生に伺いたいのはスチュワードシップコードです。
私は去年先生と一緒にICGNに行ってその時にスチュワードシップコードについても、私にとっては初めて聞く話だったんですけれども、その時に「あぁまだまだ日本なんかこんな話こないな」と思っていたらすごい勢いでスチュワードシップコードが出てきてしまいましたね。
正直びっくりでした。


松山:

これは日本の経済再興戦略の中の1つで、個人投資家がアメリカの個人投資家のように意見を言える、
勉強していって投資をする、というよりも、そもそもプロが発言をしないのではないの?ということがあったので、
そこからまず切り込んでいったと思うんですね。
そういった意味では先ほどのESGのコンセプトと同じように、機関投資家は「企業の持続的な発展のために株主としての責任ある行動をとりなさい」というのが根本なわけですね、


野田:

その中で出てきている言葉の1つがエンゲージメントですね。キーワードですよね。


エンゲージメントとは?
松山:

まさにエンゲージメントがキーワードで、株主として持分の大小にかかわらず長期的な視点から見て企業価値をより高めないと自分たちの投資家としての株主としてのファンドの価値が上がらない、持続されない訳です。
だから経営に対してもの申す、というのが建設的なとかいう表現をとっていますがこれがおかしいということを
ダイレクトに発言する、 そういうことを企業側も真摯に対応して受け入れるということができるということだと
思うんですね。


野田:

なるほど、その中でどうしていくのかっていうのが聞いたところによると、
英国型と米国型では違う、というようで、ちょっと私はそこまでよくわかっていないのですけれども。


松山:

スチュワードシップコードというのは英国型なんですね、アメリカがどちらかと言うと受託者責任、フィデューシャリー・デューティー(fiduciary)と言います。
そもそも論から言ってそういうものが投資家として必要でしょう、というのでその辺のちがいがありますね。


野田:

去年実際に行って、私が非常におどろいたのがカルパースでした。
例えばガバナンスが悪い会社を公表する、だとかそういうものすごく積極的なことまでやっていますよね。


松山:

カルパースがそういうことを積極的にやっているというのは、そういう人たちが作っているICGNというのは世界の団体なんですけれども、もっとよりアグレッシブな団体がアメリカにはあって、カウンシル・オブ・インスティテューショナルインベスターズ(Council of Institutional Investors)という団体のがあるんですね。
この団体は1985年にできたんですけれども、カルパースとかTIAA-CREFといった人たちが集まって共同でエンゲージメントをどんどんやっていこうと。
面白いのはその団体が安倍総理にレターを出しています。7月9日です。
こういうのは新聞には出てこないですけれども、この団体のホームページにはあるんです。


野田:

本当だ!Dear Prime Minister Abeってありますね。


松山:

その中の1つに社外取締役を3分の2以上にしろ、とかね。


野田:

Independent Boardですね。


松山:

これを日本の首相に出すくらいですから、企業にはがんがんやっていて…


野田:

ここにカルパースが入っているんですね。


松山:

カルパースも入っていますし、ハーミーズも入っていたと思います。主要なところは全部入っています。
それで日本に欠けているのは、民主的にエンゲージメントやろうとすると個々の投資家がやるだけでは企業に対する圧力・影響力にはならない。
ですから世界の団体にはICGNがあり、アメリカにはCIIというすごく強力な団体があるのですが、日本にもそういうものが全くないので。
経営者も「おたくだけしかそんなこと言っていませんよ?」と言うことになりかねないですね。


野田:

では次に統合報告についてお聞きします。


統合報告に求められるもの
松山:

統合報告もこれまでお話してきたことと同じで、本当に投資する企業の価値判断をするのに何が必要かというと
まずはその会社の一番大事なガバナンスがどういう風になっているか、でもう1つは事業そのものがどうか?
その事業が良い、環境に適合したビジネスを追求し続けているか?
もう1つはS、働く人々がもう1回働きたいようなさらにその職場で働きたいような色んなモデルを改革しようとしているかそういうものをわかりやすく開示し、単にファイナンシャルという部分だけでは無くてEnvironment、Social、Corporate Governanceそれ以外のものも含めたものを1つの報告書に統合していこうという動きがありまして、
それがあったのが確か2009年前後だったと思うのですが、そういう呼びかけをしたのはリーマンショック以降ですね。
というのはファイナンシャルの部分だけで企業価値をあっという間に減じてしまう、不安になってしまうのではなく、もっと企業の価値をもっと正しく判断できる方向に世の中を変えていかなければならない。


野田:

ショートターミズム、と去年のICGNでも批判されてましたよね。


松山:

この統合報告の音頭を執っているのがインターナショナルインテグレイテッドレポーティングカウンセルというところなんですけれども、IIRC。
元々はそういうコンセプトを発表して初代のチェアマンになったのはチャールズ皇太子だったんですね。
ICGNの大会でもビデオメッセージで40分間くらいスピーチされましたけれども、まさに今お話ししたように
企業の価値をもっと根本的に測り直そう、正しく見る為にはESGというキーワードでそれにプラスしてファイナンシャルの部分をきちっと1つの統合したものにして「トゥルーバリュー」と言う言葉をチャールズさんは使っていましたけれども、真の企業の価値を測るように皆さん努力してやりましょう、というので始まったんですね。
元々がコミッティーだったものが今はカウンシルに変化しているんですけれども、欧米の会社はいち早くそれに対応するということが行われています。
おそらくICGNがそれに対する対応も一番速かったんですが、2012年3月にはISGのプロフェッショナルを育てないとインテグレイテッドレポーティングを作れないということになって、プロフェッショナル育成のトレーニングというものを年に数回やる動きになっているのです。
そこで一番大事なのが単に今ある事業を色々な角度から統合した骨ない一つの報告書とすることだけではなく、
ベースとなる今の事業モデルそのものがESGという観点から見たときにこの事業は問題があるとしたら、ここが今の稼ぎ頭であるとしてもこれを構造改革しなれけばいけないぞ、と根本的に事業そのものを見直すということが最初にあって、そういう中で長期的にこの企業がどういう方向に向かっていくのかということが、色んな角度から理解出来るような報告書が求められている んですね。
企業が自分たちでそうした統合された情報が市場に提供されて、それによってはじめて世界の投資家が公平な投資判断ができるという考え方で推進されています。
特定の魅力のあるコンセプトを導き出すことはプロの機関投資家であれば個別にインタビューをすることによってそれを「やはりこの会社はEについては何点、Sについては何点」といったプロが判断する、ということで自分たちだけがそういうコンセプトで、市場を動かすということはできると思うんですが、それでは公平感がないですよね。
企業自身が自分たちをそういう観点から見た時にこういうところに課題があってこういうところをいつまでにどう改善するか、あるいは自分たちの強みはここにあってそれをより固めていく、より伸ばすのだということが個人の投資家まで理解できないと投資の世界が民主的に動いていくとは言えません。
まさにそういう方向を目指そう、それは統合報告を積極的に発信することによって何をしたいかということは今の資本主義、色々課題のある資本主義を元通りにし、本当に資本主義以外に世の中を長期的持続的に発展させる仕組みはないので、これを維持発展させるためには絶対必要なツールなんだという考え方です。


野田:

ものすごく思想に基づいていますよね。


松山:

そうなんです、「サステイナブル・キャピタリズム」というのがキーワードなんですけれども、まさに資本主義をより確実なものにするために、企業が真摯に企業の真の価値を生み出す仕組みをわかりやすく発信できるかによっていまの世界をより発展できるかというところまで動いていますね。
そういうのが日本にポッと入ってくるのですが、日本で統合報告というと、こっちに「コーポレートガバナンス報告書」があって、こっちに「アニュアルレポート」(ファイナンス中心のものがあって)、「CSRレポート」があって…というのをあちこちから集めて切り貼りをして統合するのですね。
現在、統合報告らしきレポートを作成している会社が100社くらいあるんです。今年の6月のICGNのアムステルダム大会でも「日本で発信されているのは、インテグレイテッドレポーティングではなくてコンバインレポートだ」という風に揶揄されていました。
本当にこの会社が持続的に成長するためのコンセプトが見えてこない。


野田:

なるほど、色々といっているけれども貫いている考え方はなんですか?
ということが疑問視されているということですかね。


松山:

A社も出してましたよね、それで僕がIR部門の方にお会いしたんですけれども、
まさにコンバインドレポートで、A社の本質が見えてこない、僕なんかA社の事はよく知っている方なんですけれども
これを読んだだけではA社が見えてこないですね。


その他の話題について
野田:

他に何かありましたら今お話しいただけますか?


松山:

今日の話の中で、こういうのも出たんですね、「社外役員を含む非業務執行役員の役割、サポート体制等に関する中間とりまとめ」、コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会からですけど。


野田:

このメンバーみごと全員男ですね(笑)。
社外取締役を含む非業務執行役員の役割・サポート体制…教育必要ですよね!?
中でも会計の力は絶対必要でしょ !?今の太字で!


松山:

それとほとんどの会社でやられていないのは業務執行取締役、あるいは常勤監査役等の人物評価ですね、
社員というものはアカウンタビリティで360度厳しく評価されるじゃないですか、だけども一番評価基準もないし
評価されていないのは社長、取締役ですね。もちろん監査役も。


野田:

アメリカの場合、それはものすごく厳しいですよね、株主が黙っていないので経営者は無能だと代わりますよね。


松山:

アメリカの場合は委員会設置会なので、特に監査委員会とか指名委員会がCEOの知らないところで評価していて、突然CEOがクビになりますからね。何年か前のICGNの会議で40分間くらいある会社をモデルに指名委員会で社長を解任する、というのを現実やったストーリーというものもありました。
それと取締役会で議論して投資をする、あるいは提携をするとなった時に結果的に上手くいかないということがありますよね、それに対する取締役会決議をして投資をするというのがやってみようということが承認されただけ結果までその時点で免責されているわけではないんですね。ところが免責されていると思っている経営陣が結構多いんです。
だから失敗を繰り返す、自分たちに痛みがないから、全て株主の損なんですね。


野田:

だから利益相反なんですよね、


松山:

だから報酬を開示しなさいというのはそこにあって、そんなに高い報酬を払ってまでこの人にやっていてもらう必要はないのでは?という話なんですね。


野田:

取締役会自体がどう機能しているか、という評価もするというのをどこかで聞きましたよ。


松山:

日本ではあまり聞かないですけれども海外の企業は必ずやられていますね。


野田:

取締役会自体がどれだけその議論が有効かというのも重要ですよね。
だからずっと黙っているなんてありえないですよね、発言がないだとか(笑)


最後に
松山:
株主関係管理-株主尊重の経営-

『株主関係管理-株主尊重の経営-』、これ私が復刻して翻訳出版した本なんですけれども、今言ったようなことはほぼ網羅して書いてある本です。http://www.nadir.co.jp/
元々出版されたのが1967年に東洋経済新報社からアメリカで1963年に発行された「Investor Relations:The Company and Its Owners」が翻訳出版され、これを一橋大学の図書館の書庫で発見し、復刻出版したのが2009年8月ですね、リーマンショックの翌年です。
この中に統合報告という記載も既に出ています。この時はインテグレイテッドではなくてユニファイドと言う言葉を使っています。
アナリストと対話をする時に、最低限こんなこと話して下さいというようなところは今でも通用する話です。
そういった意味ではGEは色んなモデルになりうると思うんです。最初にアメリカで原著が出版される10年前に、GEにはすでにIRセクションができているんですね。
1953年に、その後10年間GEが中心となって活躍してきて、それを真似て色々な企業がIRというものの取り組みの必要性を感じて、アメリカ経営協会がそれを本にまとめて1963年に原本が出版されて、それを東洋経済が見つけて翻訳出版したのが1967年だったんです。


野田:

研修会社の方によるとIRがテーマだと人が集まらないとか・・・
今こそIRだと思っていたものだからどういうことなの?って。


松山:

たぶん紙で印刷して出していたのがウェブに変わったし、そうすると自前でできてしまう会社もたくさんある。
もう1つは機関家現象で個人が減って機関家現象が増えているのである意味でやるべきことが絞られているので企業自身ができることが増えちゃったので。だけれどもコンサルテーション部分だけは残ると思うんです、ツールとかイベントとかではなく、コンセプトンの確認や戦略設計など、真のコンサルテーションの部分で。


野田:

コンサルテーション自体はまだまだ必要ですよね。


松山:

そこがコンサルテーション、30年間くらい全然増えていませんから。
海外の株主を調査しようとかいうテクニカルなツールはふえているんですけれども。
では実際にそういう株主とエンゲージメントするにはどういう準備をしなければならないかだとかそのためのコンサルをするにあたっては少なくともICGNの動きをウォッチしていないと現場の最先端の投資家を知らないで企業のコンサルはできないですからね。
でも、今年のアムステルダムのICGNへの日本からの参加者は、たった4名。コンサルタントは私一人でした。
世界から600名近く集まる大会の主役・年金基金の関係者は、私の知る限り、日本から「0」、
ガバナンス改革を叫ぶ大学の教授や研究者も「0」。資本市場に関わる取引所や金融庁などの関係者も「0」でした。


野田:

それは本当に残念ですね。私は昨年のNYに初めて参加したのですが、実際にその場に行って雰囲気を体感することがいかに重要か認識しました。
あるパネラーの女性は“今さらダイバーシティ云々を話し合う必要はないでしょ?もう当たり前の価値よね?”と
はっきり言っていた。
すでにダイバーシティは基本的人権並みに扱われていた。
これは衝撃でした。これも行ったからこそわかることだと思います。

今日、先生とお話しして持続可能な世界の確立を目指して私たち一人一人の目覚めが無ければならない、と
あらためて強くそう思いました。

本当にありがとうございました。




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